広島高等裁判所 昭和37年(ネ)105号 判決 1966年9月16日
控訴人 中川徳雄
同 大石伍郎
同 上田正
同 得利万一
同 村川覚介
同 二谷関治郎
同 岸田三郎
同 植杉千代一
同 上田百合弌
控訴人等訴訟代理人弁護士 塚田守男
被控訴人 小野田農業協同組合
右訴訟代理人弁護士 広沢道彦
主文
原判決中控訴人植杉千代一、同上田百合弌に関する部分を取消す。
被控訴組合の右控訴人両名に対する請求を棄却する。
右控訴人両名を除く控訴人らの本件控訴を棄却する。
訴訟費用中右控訴人両名と被控訴組合との間に生じた分は第一、二審とも被控訴組合の負担とし、その他の控訴人らと被控訴組合との間の控訴費用はその他の控訴人らの負担とする。
事実
第一、申立
控訴人ら訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴組合の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴組合の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
第二、主張
一、被控訴組合の請求原因
1、被控訴組合はかねて訴外浜戸正一に対し金一一九万円の貸金債権を有していたところ、昭和二七年中控訴人らの代理人浜戸正一との間で控訴人得利、同中川、同上田正、同二谷及び訴外竹本民子、久富善一はその一部債務を別表(1)ないし(6)記載のように引受けた上、これを目的として被控訴組合と消費貸借を結び、その他の控訴人ら及び控訴人中川は別表連帯保証人欄記載のとおり債務引受者の債務を連帯保証した。
2、仮に浜戸が右債務引受、連帯保証等につき代理権を有しておらず或いは金額に相違があったとしても、控訴人らはその後浜戸の右行為を追認し、かりにそうでないとしても控訴人らは金額の記入のない借用証書に捺印したり、自己の印章を浜戸に預けた結果、浜戸が別表記載の金額について控訴人らの名で被控訴組合と前記契約を結んだものであり、被控訴組合が浜戸に代理権があると信じ、そう信ずるについては正当事由があったものであるから、いずれにしても控訴人らには本人としての責がある。
3、そこで被控訴組合は控訴人らに対し関係債務及びこれに対する別表記載の引受日の翌日から支払済まで約定率による利息と損害金の支払を求める。
二、控訴人らの答弁
1、被控訴組合主張事実はすべて否認する。
2、控訴人村川同岸田は被控訴組合の組合員ではないので農業協同組合法第一〇条により責任を負うことはない。
第三、証拠関係<省略>
理由
一、原本の存在及び成立に争いない甲第一〇号証の供述記載と原審及び当審証人黒瀬一実、浜戸正一(後者の原審分は一、二回)に弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。
1、被控訴組合の理事であった浜戸正一は被控訴組合から金融を受け、昭和二七年六月頃その額は約一一九万円に達した。
2、被控訴組合の当時の組合長浜田務は、組合規約による貸付限度額が金一〇万円であったところから、臨時監査を前にしてその頃浜戸に対し、前記借受金額を貸付限度額以下の金額に細分した組合員を借主とする借受に改めるよう求めた。
3、浜戸は近隣或いは知己を訪ねて金額の記載のない借用証書に右事情を述べて捺印方を依頼したが、金額については具体的には説明しなかった。
4、控訴人らの内控訴人中川、同上田正、同得利、同村川、同二谷、同岸田方では自ら又は家族が浜戸の依頼を承諾し、控訴人大石に関しては義兄大石音治が同控訴人の承諾を得て各浜戸の持参した借用証書用紙に右控訴人らの印章を押捺した、(これが甲第一、四、五、六、八号証の関係部分である。)。
5、控訴人植杉、同上田百合弌については本人の了解を得る余裕がなかったので、浜戸は右各控訴人の弟植杉朝満、及び兄上田熊恵に話をして同人らの各印章を同様に押捺してもらった(これが甲第一、二、五号証の関係部分である。)。
6、浜戸は訴外竹本民子、久富善一からも同様にして捺印を得た上、浜戸と被控訴組合の両者の間で右借用証書に以上控訴人ら関係者の氏名限度内の金額及び日附等を記入して控訴人ら関係分は別表(但し番号二分の弁済期は昭和二七年一〇月一日である。)のように作成し、浜戸の旧債務は清算済として処置した。
7、昭和二九年二月頃被控訴組合貸付係は控訴人らに対し右借用証書により請求したが、控訴人らはこれに対し別段の異議は申立てなかった。
以上の経過では、控訴人植杉、同上田百合弌を除く控訴人らは浜戸正一の被控訴組合に対する消費貸借債務を組合規約の範囲内の額で引受負担するとともに、これを目的として消費貸借契約等を締結することを浜戸に一任し、浜戸が右控訴人らの代理人として被控訴組合と別表記載のような右趣旨の契約を締結したものと認定されるが、控訴人植杉、同上田百合弌については他の控訴人らと同様の事実関係であったとは到底認められず、結局浜戸が権限なくして、即ち右控訴人両名の無権代理人として同趣旨の行為をしたものと解せられる。
原審証人二谷梅枝、当審証人植杉朝満、上田熊恵の各証言原審での控訴人中川、同得利、同村川、同二谷、同岸田、同大石、原審及び当審での控訴人上田正(原審分は第一、二回)の各本人尋問の結果中右認定に反する分は信用しがたく他に右認定を左右するだけの証拠はない。
二、被控訴組合は浜戸正一が控訴人植杉、同上田百合弌につき代理権がなかったとしても、追認があり、又は表見代理が成立すると主張する。
しかし、前記被控訴組合の請求に対し異議を述べなかった一事で右控訴人両名が前記浜戸の行為を黙示的に追認したと認めるには足りず、証人浜戸正一の原審での証言(第一、二回)には浜戸正一が右控訴人両名に自己の前記行為を説明して承諾を得た、という部分があるが、前認定の経過及び控訴人上田百合弌の原審及び当審での本人尋問の結果に比較するとき信用しがたく、他に右控訴人両名が浜戸の前記行為を明示或いは黙示的に追認した証拠はない。
又右控訴人両名については、同控訴人らが浜戸の求めに応じて借用証書用紙に捺印したり、印章を交付した事実が認められないことは前認定のとおりであり、他に右控訴人両名が浜戸に代理権を与えたことを認めるに足る証拠はない。
三、控訴人村川、同岸田は農業協同組合法第一〇条により責がないと主張し、右控訴人両名が被控訴組合の組合員でないことは被控訴組合が明かに争わないので自白したものとみなすべきであるが、右控訴人両名の本件債務はいわゆる員外貸付によるものではなく、組合員の借受債務を保証するものであるから、右法条の適用はない。
四、そうすると被控訴組合の請求は控訴人植杉、同上田百合弌を除く控訴人らに対する部分は相当であるが、右控訴人両名に対する部分は失当といわねばならない。従って被控訴組合の請求を全部認容した原判決につき、右控訴人両名に関する部分を取消し、その他の控訴人の控訴を棄却すべきものとし、
<以下省略>